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神戸地方裁判所 昭和34年(行)26号 判決 1961年4月07日

豊中市服部五番町二番地

原告

小田栄吉

右訴訟代理人弁護士

西田順治

西宮市池田町九五番地

西宮税務署長

被告

前川太良右門

右指定代理人大蔵事務官

輸宝久晃

仲村清一

検事 山田二郎

右当事者間の審査決定等取消等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は、「被告がなした原告の再調査の請求を却下するとの昭和三三年一二月二六日付決定中、昭和三〇年分及び昭和三一年分の所得税決定(所得税法第四四条第四項所定の決定をいう。以下同じ。)に関する部分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告は、被告が昭和三三年七月一五日になしたと称する原告の昭和三〇年分乃至昭和三二年分の所得税決定に対しその決定にかかる原告の所得金額等につき異議があるとして、昭和三三年一二月一〇日被告に異議申立をなし、さらに同月二四日被告に再調査の請求をなしたところ、被告は、右請求は所得税法所定の期間経過後になされたとの理由で、再調査の請求を却下するとの同月二六日付決定をした。そこで、原告は、さらに右決定に対し昭和三四年一月二四日大阪国税局長に審査の請求をしたが、同局長は審査の請求を棄却するとの同年四月二一日付決定をなした。

けれども、原告は被告から前掲各年分の所得税決定の通知書を受取つていない。被告は、昭和三三年七月一五日右通知書を書留配達証明郵便をもつて西宮市平松町四番地の原告住所に発送し同月一六日配達されたと主張するが、原告方においては何人もこれを受領していない。原告は、同年一一月二五日被告所属税務署職員から電話で大阪市南区安堂寺橋四丁目四一番地の原告居所に右各年分の所得税(加算税を含む)約七〇〇、〇〇〇円の支払督促等を受けたので、前掲決定の通知書受領について調査したが全く心当りがない。

したがつて、原告の前記再調査の請求が決定の期間経過後にされたとの理由に基づく被告の前記却下決定は違法といわなければならない。

仮に、被告 主張のとおり前掲決定通知書が前記西宮の原告住所に配達されているとしても被告は同所に原告が居住していないことを承知の上で宛名を「原告同居人宮本進」としてこれを発送したものであつて、原告自身はこれを受領していないのであるから、原告の前記再調査の請求を法定の期間経過のみを理由として却下した被告の決定は、国税徴収法第三一条の二第二項の趣旨にも反し納税者たる一般国民の権利を侵害する違法、権限濫用の処置である。

なお、右所得税決定のうち、昭和三二年分の決定は、別に昭和三三年一一月四日原告の居所を営轄する大阪南税務署において税額が確定したため、被告は昭和三四年四月三〇日原告の異議を容れて更正をなした。

よつて、被告の前掲却下決定中、昭和三〇年分及び昭和三一年分の所得税決定に関する部分につきその取消判決を得たうえで、被告に別送所得金額等の更正を求めるため本訴に及んだと述べ、立証として、証人宮本進の証言、原告本人の供述を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち、その主張の日、その主張の趣旨の異議申立あるいは再調査の請求及び審査の請求並びにこれに対する被告及び大阪国税局長の各決定のあつたことは認めるが、その余はすべてこれを争う。

被告は、原告の昭和三〇年分及び昭和三一年分の所得税決定につき、昭和三三年七月一五日原告に対し通知書を書留郵便でその住所(西宮市平松町四番地)あて発送し、同月一六日原告の同居人宮本進がこれを受領した。

よつて、右受領の時に前掲所得税決定通知が原告に送達されたものとして、再調査の請求期間は進行をはじめる。被告が原告の再調査の請求につき期間の延長を認めるべき特別の状況(所得税法第四八条第二項、第二五条の三)のない本件においてこれを期間経過後のものとして却下した決定は正当であるから本訴請求は棄却されるべきであると述べ、

立証として、乙第一号証の一、二、同第二、第三号証を提出した。

理由

原告が被告のなした昭和三〇年分乃至昭和三二年分の所得税決定に対し、被告に昭和三三年一二月一〇日及び同月二四日に再調査の請求をなしたこと(同月一〇日になされた分を原告は異議申立と名付けているが、これを所得税法第四八条第一項所定の再調査の請求と解すのが、相当である。)被告が同月二十六日原告の右請求を法定期間経過後になされたものとして却下する決定をしたこと、右決定につき原告主張のとおり審査の請求及び右請求を棄却する決定のあつたことは当事者間に争がない。

ところで、成立た争のない乙第一号証の一、二回第二、第三号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告所属税務署職員から原告にあてた書留郵便物が西宮市平松町四番地の原告方に向け発送され、昭和三三年七月一六日同所において宮本進に受領されたこと及びその内容は被告の原告に対する昭和三〇年及び昭和三一年分の所得税決定通知書を含んでいることを推認することができる。そして、証人宮本進の証言及び原告本人の供述(いずれも後記借信しない部分を除く。)によれば、原告は昭和三三年七月初頃まで西宮市平松町の右家屋に居住し、その後においても住民登録法上、住所を他に移転する手続きをとらず、同家屋にはその妻の弟であつて、しかも、原告の事業に関連あるエビスフトン株式会社を経営する宮本進を居住させ、原告あて郵便物は同人が受領しこれを遅滞なく原告のもとへ持参するのを例としていたこと並びに前掲郵便物のように原告の事業の経理に関するものは原告がこれを計理士村田秋雄に渡して同人に処理させていたことが認められ、これらの事実を推すときは、被告の原告に対する昭和三〇年分及び昭和三一年分の所得税決定通知書は昭和三三年七月一六日宮本進がこれを受領し、同人は遅滞なくこれを原告に交付したものとみるのが相当である。証人宮本進及び原告は、右通知書を受領した事実がないと供述しているけれども、この種の郵便物が通常前掲のような手順で処理されている以上、右両人ともその受領の有無がはじめて問題とされた同年一一月下旬頃においてはすでにその記憶を喪失していると考えられるので、右供述によつて前記認定を左右することができない。

以上のとおり原告が被告あて前託再調査の請求をなした昭昭三三年一二月一〇日にはすでに原告が前記両年分の所得税決定通知書を受取つてから所得税法第四八条第一項所定の請求期間たる一カ月以上の期間の徒過していたということができる。よつて右両年分の所得税決定に関する部分については、法定期間の徒過を理由として原告の再調査の請求を却下した被告の前記決定は正当であつて、その取消を求める本訴請求は理由がない。(なお、原告は、右再調査の請求はやむを得ない事由により遅滞したものであるから、被告が前記理由によりこれを却下したのは違法であると主張するけれども、右に認定した日頃原告は前記通知書を受領しているものと認められる以上、所得税法第四八条第二項、第二五条の三にいうやむを得ない事由があるものといえないから、被告の右却下決定はこの点につき裁量を誤つた違法のものということができない。)そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森本正 裁判官 管浩行 裁判官 高山畏)

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